Oct 26, 2017

『Incubate Camp 10th』に見る、起業家とキャピタリストの理想的な関係とは?

incubate

「志ある起業家の挑戦を、愚直に支え抜く」

創業期の投資・育成に特化したベンチャーキャピタル「インキュベイトファンド」。冒頭の言葉は、同社が掲げるモットーだ。そしてこの信念をもっとも色濃く凝縮したイベントがIncubate Campといえるだろう。

今年で10回目を迎えるIncubate Campは、シードアクセラレーションプログラムとして2010年にスタート。シードラウンドの起業家や、事業拡大を目指しさらなる資金調達を希望するスタートアップと、ベンチャーキャピタリストが一堂に会し、1泊2日の合宿形式で事業計画をブラッシュアップ。最終プレゼンテーションを経て各賞が決定し、具体的なファイナンスへの道が開かれる。

昨年は、1社に対して最大1.9億円をはじめ、総額約7.2億円のファイナンスが成立。起業家やスタートアップにとっては間違いなく大きなチャンスであり、さまざまな投資家からアドバイスがもらえることは、またとない貴重なインプットとなる。一方、キャピタリストにとっても投資しがいのある事業プランや人と出会えるほか、わずか一晩で事業をより明確に成功に導けるプランへと仕立て上げられるか、キャピタリストとしての手腕が問われる。

だから、熱い。起業家はもちろん、投資家も審査員も、熱くなる。Incubate Campは、起業家もキャピタリストも双方にとって成長できるイベントなのだ。

今年で10回目を迎えたIncubate Campには、過去最大となる約280のエントリーから選ばれた18のスタートアップが登壇。対するベンチャーキャピタリストも18名が参画し、審査員としても過去最高の10名のキャピタリストが参加した。今回はインキュベイトファンド代表パートナーである本間真彦氏、和田圭祐氏、村田祐介氏、そして審査員のひとり、新和博氏のインタビューをもとに、同イベントをレポートしよう。

起業家とキャピタリストが一心同体となって事業プランをブラッシュアップさせていく

<Day 1>
10:30〜 起業家・スタートアップによるピッチ(各5分)
13:30〜 起業家・スタートアップ×ベンチャーキャピタリストによるメンタリング(各15分)
19:00〜 ドラフト指名→マッチング
※夕食後、各ペアにてメンタリング

午前10:00。千葉県木更津市のオークラアカデミアパークホテルの会場にて、イベントは始まった。最初のプログラムは、「18人の起業家・スタートアップによるピッチ」だ。起業家の持ち時間は、わずか5分。


↑メンタリング会場の様子

18人の起業家がプレゼンを終えると、起業家とキャピタリストは、メンタリングのセッションへと移る。各メンタリングは15分間。キャピタリストは、18人すべての事業プランと向き合う。その後、ドラフト方式で興味のあった起業家を指名し、マッチングが行われる。

そしてマッチングが成立した起業家とキャピタリストは、翌日の決勝プレゼンテーションに向けてさらに深夜まで事業内容を議論しながら、ブラッシュアップさせていく。

この起業家と投資家が一緒になってプランを議論していくスタイルは、どのようにして生まれたのか。Incubate Campを創設し、第一回から運営に携わってきた和田圭祐氏に聞いてみた。

「ベンチャーキャピタリストは普段は起業家を評価したり、あるいは投資を見送ったり、起業家と対等の関係でいたいと思ってもなかなか構造上難しい側面があります。そうした起業家とベンチャーキャピタリストの関係性ではなく、ペアを組んで一心同体となってプラン改善に取り組む時間を作りたいと思い、この仕組みを導入しました。

さらにIncubate Campでは、キャピタリストも起業家から採点・評価される賞を設けています。だから起業家だけではなく、キャピタリスト同士も互いに負けたくないという“ライバル心”を刺激して競い合うような空気がある。そうした雰囲気を作り、醸成させていったのが、現在のIncubate Campです」(和田)

1泊2日の合宿形式にしたのは、起業家も投資家も切磋琢磨して相互理解を深め、短時間で事業プランをブラッシュアップさせることがねらい。互いに“ガチンコ勝負”のメンタリングが、各プランを短期間でブラッシュアップさせる原動力となる。

そうして、Incubate Campそのものもイベントとして進化してきた。

参加する起業家のレベルは年々、上がってきていると同時に、ファイナンスの成立額も増加し続けている。新規起業するための少額の資金調達ではなく、すでに実績はあり、さらに事業拡大を目指すためのより大きなファンド獲得を目指す起業家が増えてきたのだ。実際に今回プレゼンされた18の事業プランのうち、15はすでにローンチ済み。この日に合わせて前日にプロダクトをローンチさせたツワモノもいたほどだ。

『Incubate Camp 10th』のキーワードは“多様性”と“協働”にある

この進化を象徴するのが、事業プランの“多様性”だ。村田祐介氏は、マーケットの広がりを感じたという。

「Incubate Campをスタートした2010年頃は市場がへこんでいる時期で、投資のテーマも特定の分野に偏っていました。どうやってソーシャルグラフを拾うのか、あるいはスマートフォンがようやく出てきたけれどどうするかなど、インターネットをめぐるいろいろなテクノロジーの変遷が軸になっていたんですね。

しかし、ここ数年、私たちが狙うマーケットは、必ずしもインターネット中心ではなくなってきている。インターネットとはまったくゆかりもないような産業もあれば、ものすごいテクノロジードリブンな領域にインターネットが進出していったり。その傾向が顕著に現れたのが、『Incubate Camp10th』なのかなと感じています。

今回の起業家たちのプランはそれぞれフィールドが異なっていて、それを評価するキャピタリストのドラフト指名も、それほど重複することなく分散されました。つまりは、ベンチャーキャピタルにとってもそれだけいろいろな選択肢があり、広がりがでてきたということ。マーケットの多様性を実感するキャンプになったなと思います」(村田)


↑18人のキャピタリストとのメンタリングは、ひとりにつき15分間。フィードバックは、合計270分にもおよぶ。しかし、起業家にとっては、それでも物足りないようだ

村田氏が指摘するとおり、今回参加した起業家の事業プランは、ARを使ったテクノスポーツから、農業や医療分野に関するもの、さらに同じマッチングサービスでも、男女を引き合わせるサービスから、大学・学年に関係なくOB・OG訪問ができるサービスなど、多様性に富んでいた。

その中で、各ベンチャーキャピタリストは、18社すべての起業家とメンタリングを行わなければならない。村田氏自身、今回のメンタリングではそれぞれまったく異なる“18通り”のフィードバックを行ったそうだ。

「自分なりにこの仕事を続けてきた長い経験がありますが、その自分の得意領域として、例えばどうやってユーザーやコンシューマー、あるいは法人ユーザーを増やすのか。その中でチームの構成は本来どうあるべきかなど、基本的なフィードバックもあれば、テクノロジーがとがっている事業プランに関しては、今のトレンドは今後1、2年の間にどう変わっていくのか、その変化にどのように取り込むべきか、ヒアリングすることも多かった。今回は18人、各プロダクトの進化の状況もバラバラなので、それに合わせたフィードバックが18通りあったという印象ですね」(村田)


↑もしも指名が重複した場合は、起業家からキャピタリストの逆指名でマッチングは決まるというルール。この“起業家がキャピタリストを選ぶ”逆ドラフトは、Day1のハイライトだ

キャピタリストがドラフト指名をする際に、どのようなところを見ているのか。本間真彦氏は、“協働”をキーワードにあげる。

「もちろん、人それぞれかと思いますが、僕はまず起業家がねらうテーマをよく見ます。具体的には、自分がこれから投資していきたいと考えていた領域の事業プランを指名させてもらいました。その領域は自分より先に取り組んでいる方々なので、僕が教えるというよりは、この人から学びたいと思える事業プランなのかどうか。“協働”してみたいかどうかという視点を、ひとつのポイントにしました」

この本間氏の言葉からも想像できるように、Incubate Campでは起業家とキャピタリストが対等の立場なのだ。


↑マッチングが成立した起業家とキャピタリストは、時間の許す限り議論し、翌日の決勝プレゼンテーションに向けて事業プランをブラッシュアップさせていく

ドラフトでマッチングした起業家とキャピタリストは、膝をつけ合わせてさらに事業プランをブラッシュアップさせていく。プログラム上では、「原則24時まで」とあるが、翌日の決勝プレゼンテーションに向けて夜を徹して作業を行う起業家もいたようだ。

各賞は、起業家×キャピタリストのペアに贈られる

<Day2>
13:00〜 決勝プレゼンテーション
18:00〜 各賞の発表(総合・グロース賞・審査委員賞・スポンサー賞・キャピタリスト賞)

この日は、10名の審査員も合流。決勝プレゼンテーションは13時からスタートした。

午前中は前夜から引き続き、キャピタリストと議論したアドバイスを事業プランに反映させ、最終的にキャピタリストと詰めていく作業を、時間ギリギリまで行う。

決勝プレゼンテーションの持ち時間は約5分。タッグを組んだキャピタリストが応援コメントを述べたのち、質疑応答がおよそ5分間。このわずか10数分の間に、二日間のすべてをぶつける。


↑前日のメンタリングを受け、ブラッシュアップさせた事業プランをプレゼンテーション。ともに作業をしたキャピタリストからは力強い応援コメントが述べられる

本来、審査員はDay2の決勝プレゼンテーションから参加することになっているが、株式会社ミクシィのコーポレートべンチャーキャピタルであるアイ・マーキュリー株式会社、代表取締役社長の新和博氏は、Day1のプレゼンから参加。理由は「初日のプレゼンとその後のキャピタリストとのメンタリングを経て最終的なプレゼンがどういう風に変化していくか」を見るためだ。

「初日はボヤっとしたプレゼンだったのが、キャピタリストとのメンタリングやコミュニケーションを通じてすごくしっかりしたプレゼンに改善されていたり、最初の事業プランからまったく違うものに化けて出てきたりするケースもあったり(笑)。そうした変化を見られるようになって、すごくおもしろいなと思っています。

一方で審査は、年々むずかしくなってきているなと感じています。今回でいえば280社の中から厳選された18社は、まちがいなく一定以上のクオリティのあるチームばかり。それにさらにキャピタリストが入ってブラッシュアップされてきたプランなので、そこに優劣をつけるのはすごくむずかしい作業になりますね」(新)

起業家とベンチャーキャピタリストがタッグを組み、ブラッシュアップさせて発表された18の事業プランは、審査員も悩ませたようだ。

「本当にガチでキャピタリストと起業家がお互いの考えをぶつけあって事業プランをブラッシュアップしていく。Incubate Campは、そのエッセンスが1日半の短い期間に凝縮された場なんですね。だから起業家はもちろん、終わった後のキャピタリストの疲労困憊感も半端ない(笑)。魂が抜けたような、そういう状態になっているのを見ていたりするので、本当に濃い場だなと思います」(新)

すべての決勝プレゼンテーションが終えたのち、各キャピタリスト、審査員は、各事業プランを採点。同時に、起業家も、Day1のメンタリングで印象に残ったキャピタリストをアンケートに記入し提出。記念すべき10回目のIncubate Campの各優勝者が決定した。

<総合優勝>
福田浩士(meleap)×和田圭祐(インキュベイトファンド)

※Day2の審査員・キャピタリストの投票結果によって判定(担当キャピタリストの採点は、評価に含めない)

<ベストグロース賞>
多田智裕(AIメディカルサービス)×村田祐介(インキュベイトファンド)

※Day1のキャピタリストの投票時の順位と、Day2の審査員・キャピタリストの順位の差分によって判定

<審査員賞>
多田智裕(AIメディカルサービス)×村田祐介(インキュベイトファンド)

※審査員の投票結果によって判定

<スポンサー賞>
木下靖堂(BIT)×今野穣(グロービス・キャピタル・パートナーズ)

※スポンサーの投票結果によって判定

<キャピタリスト賞>
高宮慎一(グロービス・キャピタル・パートナーズ)

※Day1のメンタリングを受けて起業家による投票結果によって判定

キャピタリスト賞以外、各賞はすべてマッチングした起業家とキャピタリストに贈られる。これが、Incubate Campのスタイルなのだ。

起業家が成功するには、いろいろな角度から意見を聞く必要がある。そのためにキャピタリストは存在する

最後に、あらためて起業家にとってIncubate Campとはどのようなイベントなのか、本間氏に聞いてみる。

「起業家にとってIncubate Campに参加する最大の意義は、多角的にエキスパートな人たちの意見を1度に聞けることにある。

起業家というのは、自分で自分のやりたいことを決められる人がなるもの。けれど成功するためには、いろいろな角度から意見を聞く必要がある。そのためにキャピタリストは存在します。いろいろなアイデアや意見のシャワーを浴びながら互いにフラットに議論していけば、事業プランは間違いなく、より良いものになっていくはず。この起業家とキャピタリストの理想的な関係を築けるのが、Incubate Campなのではないかと思っています」(本間)

起業家とキャピタリストが同じ土俵に立ち、一心同体となって悩み、考え、知恵を絞る。そうして未来を切り拓く事業プランは生まれるのだ。


↑(号令)「インキュベーイト」→(全員で)「キャンプ!!」。恒例の掛け声は、一発で会場をひとつにする、同イベントの“合言葉”だ